Skate Forward! その先へ Vol. 2 スピードスケート 強化副部長
黒岩 彰 氏

“北京オリンピックのメダルを目指す選手たち”の滑りをぜひリンクで

平昌オリンピックで3つの金メダルを含む6つのメダルを獲得する大躍進を遂げた日本のスピードスケート。2022年北京オリンピックに向かって、さらなる高みを目指して突き進む選手たちの姿を見逃すのはもったいない。カルガリーオリンピック男子500m銅メダリストで、現在は日本スケート連盟スピードスケート強化副部長として選手たちをサポートする黒岩彰氏に、スピードスケートの観戦を楽しむためのポイント、素朴な疑問に答えていただきました。

北京オリンピックに向けて

―― 平昌オリンピックでは、スピードスケートは6つのメダルを獲得する大躍進を遂げました。

「我々がここまでがんばれている1つの大きな要因は、ソチオリンピックでの惨敗です。あのメダルゼロは屈辱でしたね。そこから湯田淳強化部長が平昌までの4年間のプランを立てました。オランダから気鋭の指導者ヨハン・デヴィットヘッドコーチを呼んで、ナショナルチームを組織したのも功を奏し、女子が6つのメダルを獲りました。6つという数は、現状を考えると、結構マックスに近い。ですから次の北京では、男子のメダル獲得が絶対に不可欠です。この2年くらいで男子も世界との差を大きく縮めてきている。500m、1000m、1500mのうちで、もし3つでもメダルが獲ることができ、さらに女子ががんばれば、トータルで2桁を狙えます」


―― 2010年のバンクーバー・オリンピックでは、長島圭一郎選手と加藤条治選手が男子500mでメダルを獲得しているわけですし、北京での12年ぶりの男子のメダルも期待したいですね。

「ソチからの4年間でこれだけ変われたということは、次の北京でも大きく変えられるはず。いま男子も意欲的に取り組んでいますし、北京では何がなんでもという気持ちがあります」

テクニックが凝縮された500m

―― スピードスケートは、男子が500mから10000m、女子が500mから5000mまでと距離別に5種目に分かれていますね。ほかに、団体種目「チームパシュート」や多くの選手が同時に滑る「マススタート」がありますが、黒岩さんをはじめ、日本選手がこれまでとくに得意としている最短距離500mとはどんな種目ですか。

「500mは、スタートから始まって、コーナーの入り口、バックストレート、最終コーナー、ゴールする最後の最後までミスが許されない。極論すれば、スタートからゴールするまでずっと加速している種目です」


―― いいタイムを出すために、どんなテクニックが必要なのでしょうか。

「500mを33秒台で滑りきるためには、さまざまなテクニックが求められます。スピードスケートは2人の選手がインコースとアウトコースに分かれて、同時にスタートします。まず、スタートでは長いエッジで絶対にミスなく走れるか。最初のコーナーでは遠心力をうまくスピードにつなげられるか。バックストレートではインの選手はアウトへ、アウトの選手はインへと交差するコースをどう取るか。スピードが出ているなか最終コーナーのカーブをどううまく曲がれるか、そして最後のストレートではスピードを落とさずさらに加速できるか……。こういったいろいろな要素のある難しい競技なんです」


―― スピードスケートのテクニックが凝縮されているわけですね。では、1000mや1500mは?

「1000mになると、中距離ならではの要素が必要になってきます。乳酸が蓄積されて、脚がパンパンになってくるなかで、最後どれだけ脚を動かせるかが重要です。1500mは、最初に300m、そのあと400mを3周するのですが、なるべく1周ごとのラップ差を作らないのがポイントです。髙木美帆選手の場合、最初の入りが24秒台、次が28秒、29秒、30秒とトントントンと3周滑っています。記録を出すには、1秒落としくらいで回れるのが一番理想的なんです」


―― ところで、500mも滑れば、1500mも滑るという選手もいますが、いろいろな距離を滑れる選手というのは?

「たとえば、髙木美帆選手がそうで、1500mを中心に、500mも速いし、1000mも5000mも走れるオールラウンダーです」


―― オールラウンドでの勝利が、いわゆる総合優勝のイメージに近いのでしょうか。

「オールラウンドの世界選手権がありますが、いまはシングルディスタンス(距離別)のレースのほうが、評価が上がりつつあります。以前は、男子なら500mから10000mまで滑りきって、トータルで一番強い選手が「キング・オブ・スケート」と言われていましたが、いまは500mのチャンピオン、1000mのチャンピオンというように種目ごとの結果が重視されています」

レース前の準備について

―― スピードスケートのリンクは1周400mと、フィギュアスケートやショートトラックのリンクより大きいですね。試合中、内側のレーンで滑っている選手がいますが、何をしているのですか?

「レースが終わった選手がクールダウンしていたり、これからレースをする選手がレースの流れを見ながら、身体を整えつつ順番を待っているんです」


―― 何組前から準備するのでしょうか。

「人それぞれだと思います。一番困るのは、スケート靴を履き始めて、さあレースだ!というときに、前の組で転倒があって、氷の補修のため、予定以上に氷の上にいる状況が生まれたとき。そのなかでどれだけ自分の気持ちをしっかり維持できて、集中を途切れさせないで待てるか。身体を冷やさずにしっかり動いていられるか。それが大事です」


―― 後半に滑るほうが有利なのですか。

「とくに長距離では、後から滑るほうが若干有利かなとは思います。たとえば、ライバルが10000mを13分15秒で先に滑ったのがわかれば、そのタイムを上回るペース配分を作ればいい。何もないところで勝たなければと思うと、オーバーペースで入ってしまうこともあるかもしれませんから。逆に500mは先に滑っていい記録を出して、後から滑る選手にプレッシャーを与えるということもあります。どちらにしても、本当に強い選手は強いんですけどね」


―― レースでは、フライングになってスタートをやり直す場合もありますね。

「フライングが多い選手もいますよ。フライングがあれば、もう一度やり直しますが、2本目にフライングした人が失格になるルールなので、どうしてもスタートが慎重になる。若干出遅れが発生したりします」


―― 氷の厚さは何cmですか?

「フィギュアは8cmくらいだと思うんですけど、スピードでは2cmくらいです。下のコンクリートが透けてみえるくらい。氷の表面の温度も、冷やせばいいとか、柔らかければいいというものではなく、そのリンクごとに“滑る温度”というのがある。氷が薄いほうが伝達が早いから、温度を調整しやすいんです」

選手が滑り出したら全力で応援を

―― スピードスケートでは、スタート時はにぎやかに応援してはいけないんですよね?

「だめです。フィギュアスケートでも音楽が鳴り始めるまでは絶対に観客も静かにしているように、スピードスケートでも「ゴー・トゥー・ザ・スタート」の瞬間にはシーンと静まりかえります。「レディ」、そして「ドカーン!」と鳴った瞬間にワァー!っと歓声が上がります。そこからは鳴り物もOKですので、ガンガン応援してほしいですね。国民性なのか、日本の試合では、観客がたくさんいても、シーンと静かに見ている場合が多い。どんどん声援を送ってくださるのは大歓迎です」


―― 海外の試合ではレース中、サッカー場や野球場のような盛り上がりですね。オランダなど強豪国では、応援の様子も違いますか。

「スピードスケートの伝統国オランダのファンは、熱狂的でやはり応援の仕方もよく知っています。昨季の世界スプリントで小平奈緒選手が優勝したときも、「NAO! NAO!」と大合唱が起こりました。どの国の選手にも温かい声援を贈ってくれます。オランダでは、長距離のほうが人気が高いのですが、プログラムに各選手のラップを書き込みながら、このタイムなら世界記録が狙えるなとか、このペースでいったらいま1位を走っている選手に勝てそうだなとか、そういうところまで頭に入れて観戦している熱心なファンがたくさんいます」


―― スピードスケートはどの席から見るのがベストでしょうか?

「スピードスケートに関してはとくにはないですね。席は基本的に一律料金で自由席です。たとえば、今年、新しくオープンした「YSアリーナ八戸」なら、どこで見ても見やすいと思います。私たちコーチは、ゴールの反対側のバックストレートにいますが、八戸のリンクには、そのバックストレートを除いた3方向に客席が作られています。大型スクリーンが3面にあって、どこにいても選手の滑りが見られるし、記録も確認できる。ただ、おそらく一番迫力があるのは、スタート付近でしょうね。スタートの合図が鳴った瞬間に選手たちがいっせいに滑り出ていくところと、500mでは最後のコーナーを曲がって、一番スピードの出ている滑りも楽しめると思います」

リンクで音や風を感じてほしい

―― スピードスケートをライブで楽しむ醍醐味は?

「みなさん実際会場でスピードスケートを見ると、「うわっ、速い!」とおっしゃいます。氷を削る音やビュンという風を感じてほしい。とにかく1回リンクに来ていただきたいですね。新しくできたYSアリーナ八戸、そして明治北海道十勝オーバル(帯広)、エムウェーブ(長野)が日本の3大リンクです。スピードスケートの大きな大会はこのいずれかで開催されています」


―― どの大会がおすすめでしょうか。

「まずは、全日本スピードスケート距離別選手権大会(10月25~27日、八戸)を。世界で戦っている日本選手を一堂に見られるチャンスです。次の北京でメダルを獲る可能性のある選手がいっぱい出場しますから、その選手たちを見にきてください。それから、今シーズンはオリンピックのメダリストや世界記録保持者が集うワールドカップ(12月13~15日)が長野で行われますし、年末には全日本スピードスケート選手権大会(12月26~29日、長野)もあります」


―― 男女ともに日本選手のこれからの活躍が楽しみになってきました。本日は興味深いお話をありがとうございました。

スペシャルインタビューイメージ

スピードスケート 強化副部長
黒岩 彰

1961年生まれ
群馬県嬬恋村出身
1988年カルガリーオリンピック スピードスケート男子500m 銅メダリスト
2015年からスピードスケート強化副部長

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