JSFパートナーインタビュー
株式会社ニチレイ
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スケーターのみなさんの成長を見つめ続けて
4期16年にわたりオフィシャルパートナーとして協賛を続ける株式会社ニチレイ。グループコミュニケーション部の岸正明さん、森本浩司さんに、スケートと社業との結びつき、スケーターへの多彩な支援についてお話を伺いました。
―― 株式会社ニチレイ様には2006年よりオフィシャルパートナーとして長年ご支援をいただいています。協賛のきっかけを教えていただけますでしょうか。
岸 私たちニチレイグループは、「冷力をもって社会の役に立つ」という考え方を従業員一同で共有しています。氷を使って水産品を流通させる事業から始まり、冷蔵倉庫や冷凍食品など冷力を駆使して業容を拡大していきました。自分たちのDNAとして、冷力をもって食品流通の基盤を支えているという意識をもっており、なかでも氷は我々の祖業の一つであって、氷に対する思いは強いものがあります。
そうしたなか、2005年に持ち株会社体制に移行することになり、加工食品事業や低温物流事業など、事業ごとに分社化を行いました。このとき、会社は分かれても、求心力となり得るものとしてコーポレート・ブランディングを進めていこうという話になりました。食の会社という企業イメージをもとに、「食と運動で健康を支える」というイメージを打ち出していきたいと。冷蔵、冷凍、製氷といったニチレイのオリジンの仕事と、運動やスポーツを組み合わせて考えたときに、スケートがいちばん合っているという発想に結びつきました。
そこで、2005年にフィギュアスケートの全日本選手権に看板を1枚掲出したことがスタートとなりました。その折、翌年3月に開催される「シアター・オン・アイス」というアイスショーの冠スポンサーのお話をいただきました。結果としては荒川静香さんがトリノ・オリンピックで金メダルを獲られた直後の凱旋公演となりました。有明の会場に行きましたところ、歩道橋に観客の方々がずらりと並ばれている。これはえらいことになったと思いました。(笑)
最初はフィギュアスケートから始まった協賛なのですが、広くスケート競技のご支援をさせていただけるというのはありがたいと、スピードスケート、ショートトラックを含めて2006年以降ずっとオフィシャルパートナーとしてお手伝いをしています。
―― ご支援を通じて、スケートファンにどのような企業イメージを伝えたいとお考えですか。
岸 試合でも、看板のイメージが強すぎると、競技の邪魔になってしまうことがありますよね。直接のイメージアップというより、冷たい優雅な世界と、スーパーマーケットで手に取っていただく冷凍食品のイメージ、その辺がほんわか、ふんわりとつながって、折に触れてそういえばと思い出していただけるくらいがちょうどいいのかなと考えています。長い期間で、少しずつ良好なイメージを感じていただけるよう、お手伝いをできたらと思っております。
―― スケート競技のスポンサーであることによって、御社の事業にどんな影響を感じていらっしゃいますか。
森本 プラスの影響がありますね。たとえば私は以前、水産・畜産事業を手掛けるニチレイフレッシュという事業会社に所属しておりました。ニチレイというと冷凍食品のイメージが強いと思うのですが、ニチレイフレッシュのようなB to B(企業間ビジネス)に取り組む事業においても、競技への支援を通じてニチレイグループの一員という認識をお客様に持っていただける。お客様から「全日本選手権にニチレイの看板が出ていましたね」と言っていただいて、その話題をきっかけに商談が弾むといったこともあります。
岸 社外のお客様に対する効果も高いのですが、社内でもより強く手ごたえを感じます。毎年スケートシーズンになりますと社員一同で応援しますし、オリンピックイヤーになりますと選手のみなさんに凱旋報告に来社していただけるものですから、社内が期待でいっぱいになります。平昌オリンピックのあとも、会議室フロア全体を使って、多くの社員が集まって選手のみなさんをお迎えしました。その際に、社長から「牛一頭」という目録をみなさんに贈呈しまして、これは大変盛り上がりました。
―― 牛一頭、というのはインパクトがありますよね。
岸 我々からお土産を差し上げたいということで、より健康に配慮した食肉を研究している畜産事業から、亜麻仁由来の飼料を用いて脂肪酸バランスを整えたお肉を提供させていただくことにしたのです。それがスピードスケートのみなさんを中心に非常にお喜びいただきまして。(笑)ぜひ続けてくださいという声もいただいたものですから、喜んでご提供を続けています。そんな出来事をきっかけに、このお肉、ブランド名「亜麻仁の恵み」を通してアスリートを支援する「MIRAI MEAT(ミライ・ミート)」というプロジェクトが生まれ、さらにそこから健康に配慮したお肉というイメージをマーケティングに活かすというような発展にもつながりました。お肉の売り方ひとつにしても、アスリート支援を通じて新しい手法の開発につながったということがあります。たいへんよい相乗効果を感じています。
(亜麻仁の恵み http://www.goodbalancemeat.jp/ )
―― スケートの会場に足を運ばれることも多いと思いますが、スケートのどのようなところに心惹かれるかご自身の感想を伺えますか。
岸 荒川さんの凱旋公演でイナバウアーを間近で拝見したことに始まり、ずっと会場で見ているのですが、とくにノービスの選手たちを見ていると、すごい選手が出てきたな、この先も安泰だなと感じますね。たとえば羽生結弦選手も、宇野昌磨選手も、私たちが初めて見たのはノービス選手のころに「メダリスト・オン・アイス」で滑ったときなんですよ。控室にランドセルを持ち込んで宿題をしながら、リンクに上がるとものすごいことをやっている――そんな選手が、何年かすると大きく成長して素晴らしい選手としてまた戻ってくる。そうした姿を見るのが毎年楽しみでなりません。
森本 スピードスケートもTVなどでよく見ていたのですが、2019年にスピードスケートの全日本選手権が長野で開催された折に、ニチレイグループとして選手に豚汁を提供するイベントを行うことができました。先ほどお話しした「亜麻仁の恵み」の豚肉と、「豚汁の具」という業務用商品、地元長野の信州みそを使って、豚汁を配布させていただきました。お肉はニチレイフレッシュ、具材はニチレイフーズと、日ごろは一緒になる機会の少ない事業会社が共同で開催できたイベントでした。会場でお配りしたところ、一般のお客様や出場されていた選手から「おいしい」「ありがとうございます」と声をかけていただきました。また合間にスピードスケート競技のスピード感や迫力を間近で体感できたことで、社員もたいへんうれしく参加させていただいたという思い出があります。
―― 食品での直接的な支援ということは、まさにアスリートを内側から支えていただいているということになりますね。
岸 これまでは資金のご提供という支援が中心だったのですが、私たちの商品をそのまま使っていただけるのは非常にありがたいことですね。ニチレイはどちらかというとアスリート寄りといいますか、肉・魚・たんぱく質担当だなと。(笑)そうした製品を喜んでいただけるというのは、食品会社である利点を活かせていると思います。B to B事業をしていますと、おいしいものを提供している自負はありながらも、最終消費者の方々の意見を聞く場面がどうしても少ない。ところが、お肉を提供したことで、スケート競技に携わる管理栄養士の方々とニチレイフレッシュの社員が意見交換をする場も設けていただき、これが非常に参考になっております。私たちからの提供という面をご質問いただきましたが、むしろ、ご提供したことでこちら側がいろいろなことを教えていただき、それを活用できていると思います。肉を食べることはあまり身体によくないのではという先入観もあるなかで、きちんと肉食することは健康にも心にも効くのだと打ち出してきたわけですが、そこに傍証を与えていただくきっかけにもなりました。ただの商品ではなくて、特徴を打ち出した健康に良いものを販売していくというモデルづくりの一助になっていると考えています。
―― 長年ご支援いただいておりますが、長期的なヴィジョンをもってスポーツ支援に取り組んでいらっしゃるのでしょうか。
岸 じつは、うちはどちらかというと飽きっぽい会社なんですよ。(笑)ですが、じっくりと取り組むことの大切さ、長く続けて初めて定着するイメージがあると考えて、いま行っているスポーツ協賛はどれも長い取り組みとなっています。これは社内にその取り組みを応援したいというサポーターを作らないと続かないことなんです。社内ファンづくりをやってきたことで、自然と長くなってきたという印象です。たんなるイメージ戦略にとどまらず、社内のリズムに組み込まれて、事業会社のほうからもアイディアが出て、ブランドイメージとしての活用につながっていく。いまはそういう良い循環が生まれていると思います。
―― これだけ長期間になりますと、その間に冷凍技術も発展したのではないかと思うのですが。
岸 冷凍自体の技術の発展というより、冷凍を活用した倉庫内の応用技術や在庫管理のノウハウなど、冷凍をより効率的に低コストで活用することで生活を支えることができるようになってきました。一方で、より環境への負担が少ない冷凍サービスの提供は今後への課題になってきています。
森本 冷凍食品がおいしくなったというイメージがあるかと思うのですが、それは冷凍技術というより、おもに調理技術の進歩なんですね。2001年の登場以来、お陰様で20年連続ナンバーワンの「本格炒め炒飯」という看板商品があるのですが、それまでは混ぜご飯のような製法だったものを、大量生産ラインのなかでちゃんと炒める製法を実現し、そのおいしさを、冷力を使って閉じ込めた商品になります。こうした努力によって手作りを超えていこうというコンセプトはTVCMなどを通して生活者のみなさまにお伝えしていますが、かといって、フィギュアスケートの大会に「本格炒め炒飯」という看板を出したら、何かリンクに香ばしい匂いが漂ってしまいそうですので(笑)、ニチレイという看板を見て、ふと思い出していただけたらありがたいなと思います。
岸 我々の冷凍商品に込めたメッセージとして、「おいしい瞬間を届けたい」というフレーズを打ち出しています。それは味だけではなくて、心の満足という意味でもあります。これからもスケートへの支援、また様々な商品・サービスを通じて、みなさまのもとへおいしい瞬間を届けたいと思っていますので、末永くご贔屓いただけたら大変うれしいです。
―― 今後のスケート競技にはどんなことを期待されていますでしょうか。
岸 ニチレイは以前、東京や京都、姫路でアイスアリーナを運営していたんです。姫路のアリーナは、フィギュアスケートを題材にしたNHK連続テレビ小説「てるてる家族」のロケ地にもなりました。古いリンクでしたので、耐震性の問題で閉鎖せざるを得なかったのですが、その経験を通して、リンクを運営することの費用面の大変さは身に染みています。いま、各地でスケートリンクが減っていて、リンクを新設することの困難も耳にしているのですが、なんとか工夫してリンクを増やせたらいいなと感じています。私たちがいつも応援させていただいているトップアスリートだけでなく、スケート人口全体の裾野が広がっていくことを期待したいです。