Skate Forward! その先へ
Vol. 1
ショートトラックナショナルチーム ヘッドコーチ
長島 圭一郎 氏
スピードスケートオリンピックメダリストがショートトラックを変革する
スピードスケートのバンクーバー冬季オリンピック男子500m銀メダリストの長島圭一郎氏が、2018-2019シーズンからショートトラックナショナルチームのヘッドコーチに就任しました。なぜショートトラックのコーチに? スピードスケートとの共通点は? ショートトラックの面白さは? ヘッドコーチとして2年目を迎えた長島圭一郎氏に聞きました。
―― 長島さんはスピードスケートのオリンピックメダリストですが、現在ショートトラックナショナルチーム(NT)のヘッドコーチを務めています。他競技の指導者への転身は大きな決断だったと思いますが。
「スピードスケートとショートトラックはまったく別競技で、ぼく自身それまでショートトラックは競技自体もやったことがないんです。すべてが素人。でも、せっかく声がかかったというのもあって、逆にぼくにしかできない、素人だからことできることがあるのかなと思いました。最初声がかかったときは、悩みましたけどね」
―― ショートトラック界にとっても、思いきった人事だったわけですね。
「日本のショートトラックは20何年間メダルを獲れていない。おそらく(前日本スケート連盟会長の)橋本聖子さんもずっと見てきて、ショートをなんとかしなければいけないという気持ちもあったと思います。世界トップレベルの競技成績を残している韓国やカナダからコーチを呼んだりしましたが、それでも結果が出せなかった。普通に考えても、これではいけないということで、ぼくが呼ばれたのかなという感じです。ぼくは普通じゃないと思われているので。(笑)」
―― スピードスケートとショートトラックの共通点や異なる点を教えていただけますか。
「リンクやルールはもちろん違いますし、スケート靴やスーツ(ウエア)など道具も全然違いますが、動きやスキル的な部分は根本的にはあまり変わらないかなと思います。ただ、スピードスケートは1レース2人だけですが、ショートトラックは多人数で滑りますし、何が起こるかわからない。駆け引きもあって、見ていて面白いと思います」
―― 長島さんがヘッドコーチに就任されたとき、まず何から始めたのでしょうか。
「各チームで練習する体制から、みんなで1つにまとまって、日本のショートトラックのチームとして選手を育てていこうとしています。日本チームとして世界に行って、メダルを獲らないといけない。スピードと比べると経験のあるコーチが不足しているので、まずコーチを育てないといけない。若い指導者に経験を積んでもらうために、昨シーズンからワールドカップや合宿にもずっと参加してもらっています。自分の教えている選手だけでなく、いままでライバルだと思っていた選手もしっかり教える。日本で1つにまとまって勝負していかないといけないと言い続けてきたので、すでに若いコーチたちの意識は変わりはじめています」
―― ヘッドコーチとなって2年目になりますが、今季の目標は?
「ぼくは毎年毎年の目標は立てていません。とりあえず、いまは成績は求めていません。身体作りだったり、2022年の北京オリンピックでいい成績を残すためにどうしたらいいかを考えてます。もちろん、4年で大きく変えられたらこんなすごいことはないですけど、そのあとも8年後、12年後と続きますから。若手のコーチたちとはそこまでつながるようにやっています」
―― ショートトラックとスピードスケートは別競技ということですが、ショートトラックの選手が、スピードスケートの大会に出場することはあるそうですね。
「はい、去年は3、4人スピードの試合に出場しました。今年は日程的に厳しかったので、10月の大会(全日本スピードスケート距離別選手権大会)に1人だけ出ると思います」
―― スピードスケートからショートトラックに活かせるものは?
「日本国内の話で考えると、現時点では逆にスピードスケートの選手のほうがショートトラックから学ぶことが多いと思います」
―― それはどんなところですか?
「コーナーの滑走技術ですね。競技特性上、スキル的にはショートの選手のほうが高い。スピードスケートのほうでもうまい人はいますけど、現時点ではショートトラックのほうが細かい動きだったり、道具のメカニックが進んでいます」
―― ショートトラックの大会では、場内実況を競輪中継のアナウンサーが担当したりすることもあり、観戦を楽しく盛り上げる趣向が取り入れられていました。
「いまISU(国際スケート連盟)も含めて、世界的にショートを盛り上げていこうとがんばっています。国によっては国技みたいに人気の国もあるけど、フィギュアスケートやスピードスケートに比べると、ショートトラックは競技としての歴史が浅い。競技人口もまだ少ない。ですが、徐々に国も増えてきて、このままうまく世界の大人たちがやっていけば、何十年後かわからないですけど、もしかしたらスピードスケートよりも全然デカいものになっていくかもしれません。観戦するという意味では、ショートのほうが面白いと感じてもらえると思うんですよね」
―― ずばり、長島さんは、ショートトラックの面白さをどんなところに感じますか。
「やっぱり一斉に滑って着順を決めるので、レースとしての面白さ、たとえば競馬だったり、競輪だったり、競艇だったり、そういういわゆる抜きつ抜かれつの駆け引きの面白さは、スピードスケートよりありますね。さっきもお話ししましたが、多人数で滑るショートトラックでは何が起こるかわからない。選手はアウト(外)から抜くのかイン(内)から抜くのかっていう状況を瞬時に判断してやっているので、一度会場に足を運んでいただいて、生で見ていただいたら絶対面白いと思うんです」
――10月12、13日には、この野辺山で全日本ショートトラック距離別選手権大会が開催されます。この試合の結果をもとに、シーズン前半の大会への派遣選手が決まる注目の大会ですね。日本の選手たちのライバル意識も高いのでしょうか。
「女子はまだ競技人口も少ないので、ある程度代表選手が固定されている面があります。いっぽう男子は誰が選ばれるかわからないという状況にある。みんな必死で危機感をもって競い合っているけれど、リレー種目で滑るときは協力しないといけない。日本としてメダルを獲れるようにっていう思いもあるから、健全なライバル意識もありつつ、選手同士がいろいろ声をかけあいながらやっています」
―― 続いて、11月29日~12月1日には、ワールドカップが名古屋で開催されます。世界のトップスケーターを間近で観戦できるチャンスですね。
「ワールドカップには、海外からもたぶんトップレベルの選手が全員来ると思います。予選の最初から見てもいいけど、土日のどちらか午後ぐらいから見に来るのでもいいと思いますよ。とくに初めて観戦する方なら、ショートトラックは勝ちあがり形式なので、準決勝や決勝に速い人が残っていきます。そこをしっかり見てもらうほうが面白いんじゃないかな」
―― 最後に、日本でショートトラックがもっと注目されるためには何が必要でしょうか?
「まずはオリンピックでメダルを獲ること。メディアで紹介されないと、やろうと思う人が増えないですよね。いろんな選択肢がある世の中なので、ショートトラックという競技があるんだということを、ある程度インパクトを与えて残さないといけない。やはり最初はメダルを獲って、それからすぐどう行動できるかでしょうね。選手も含めて、競技をみんなでどうプロデュースしていくかが大事です。あまり目立ち過ぎても邪魔になるので(笑)、出過ぎず、どれだけインパクトを残せるか。その能力が必要だと思います。それから、スケートを始めるにはまずリンク。ショートは、幸いフィギュアスケートとサイズが同じで利用できるので、選択肢としてこれからは増えていくんじゃないですかね」
―― 今季の日本チームの活躍を期待しています。ありがとうございました。
(2019年、9月下旬、野辺山にて)
ショートトラックナショナルチーム ヘッドコーチ
長島 圭一郎
1982年生まれ
北海道池田町出身
2010年バンクーバーオリンピック スピードスケート男子500m 銀メダリスト
2018年にショートトラックナショナルチームのヘッドコーチに就任